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感染症発生動向調査事業(NESID)

概要

感染症発生動向調査事業(NESID, National Epidemiological Surveillance of Infectious Diseases)は、国内の感染症に関する情報の収集及び公表、発生状況及び動向の把握を、医師・獣医師の届出に基づいて行うものである。現在、1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、感染症法)に基づいて実施されている。同事業の目的は、感染症の発生情報の正確な把握と分析、その結果の国民や医療関係者への迅速な提供・公開により、感染症に対する有効かつ的確な予防・診断・治療に係る対策を図り、多様な感染症の発生及びまん延を防止するとともに、病原体情報を収集、分析することで、流行している病原体の検出状況及び特性を確認し、適切な感染症対策を立案することである。
2019 年 7 月時点で、感染症発生動向調査事業において届出対象となっている薬剤耐性菌感染症は以下の 7 疾患であり、全て五類感染症に位置付けられている。全ての医師が届出を行う全数把握対象疾患は、バンコマイシン耐性腸球菌感染症(VRE, 1999 年 4 月指定)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症 (VRSA, 2003 年 11 月指定)、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症(CRE,2014 年 9 月指定)、薬剤耐性アシネトバクター感染症(MDRA,2011 年 2 月から基幹定点把握対象疾患となり、2014 年 9 月から全数把握対象疾患へ変更)の 4 疾患である。基幹定点医療機関(全国約 500 か所の病床数 300 以上の内科及び外科を標榜する病院)が届出を行う疾患は、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症(PRSP, 1999 年 4 月指定)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA, 1999 年 4 月指定)、薬剤耐性緑膿菌感染症(MDRP, 1999 年 4 月指定)の3疾患である。

届出基準

上記の届出対象疾患を診断した医師(定点把握疾患については指定届出機関の管理者)は、所定の届出様式を用いて保健所に届け出る。それぞれの届出基準は、以下の表 A に示す検査所見を満たす菌を検出し、この分離菌が感染症の起因菌と判定されるか、通常無菌的であるべき検体からの検出である場合となっており、保菌者は届出対象ではない。

表A. 届出基準

表A. 届出基準

体制

保健所は届出の内容を確認の上、NESID に入力登録し、引き続き、地方感染症情報センター、国立感染症研究所感染症疫学センター(中央感染症情報センター)等で情報の確認・追加情報収集・解析が行われ、感染症法に基づき収集した患者の発生状況(報告数、推移等)を中心に、感染症発生動向調査週報(Infectious Diseases Weekly Report:IDWR)等を用いて、国民に還元されている。2017 年 3 月の厚生労働省健康局結核感染症課長通知により、CRE 感染症などの届出があった場合には、その薬剤耐性菌について地方衛生研究所等で試験検査を実施することとなった。以後、感染症発生動向調査の枠組みで、CRE 感染症の届出症例より分離された株については主要なカルバペネマーゼ遺伝子の検出状況が収集・解析されており、病原微生物検出情報(Infectiou Agents Surveillance Report: IASR)等で公表されている。

今後の展望

感染症発生動向調査事業における薬剤耐性菌感染症の届出は、感染症法の下で、定められた症例定義に基づいて届け出られていることから、一定の質が担保されていると考えられる。全数把握対象疾患は、過小評価があることは想定されるが、患者発生動向の全体像が把握可能である。また、患者発生動向に異常が認められる場合に、保健所等による医療機関に対して、調査や指導等の介入の契機となりうるなどの点でも有用性があると考えられる。基幹定点医療機関からの届出対象疾患については、1999 年のシステム開始以来の傾向をとらえることができることから、対象疾病の発生動向を中長期的な動向を監視する上で有用であると考えられる。また、2017 年より CRE を中心に病原体サーベイランスが開始されており、今後 VRE や MDRA についても同様に耐性遺伝子の情報の収集・解析され薬剤耐性菌対策に有用な情報が集積・活用されることが期待される。