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サイトの目的

2016年4月に公表された、我が国の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016–2020」では、ヒト、動物、食品及び環境等から分離される薬剤耐性菌に関する統合的なワンヘルス動向調査を実施することが明記されている。この動向調査はAMRの現状を正確に把握し、問題点を抽出し、適切な施策を進める上での重要な戦略と位置づけている。本報告書は、国内におけるヒト、動物、農業、食品及び環境の各分野における薬剤耐性菌及び抗微生物薬使用量の現状及び動向を把握することを目的に調査結果を初めてまとめたものである。
本報告書が、我が国のAMRに係るワンヘルス・アプローチの取組を国内外へ示す第一歩となり、さらには、AMRに関する対策及び研究を進めるにあたって、関係府省庁、関係諸機関・諸団体、関係学会等に、本報告書を活用していただければ幸いである。

背景

我が国の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016–2020」において、ヒト、動物、農業、食品及び環境の各分野において薬剤耐性菌及び抗菌薬使用量の現状及び動向を把握することは、現状の施策の評価及び今後の施策の検討に寄与する重要な戦略と位置づけている。また、国際的に見ても、世界保健機関(WHO)がGlobal Antimicrobial Resistance Surveilance System(GLASS)を構築するなど、世界の耐性菌の動向を集約・共有する試みが開始されており、日本もGLASSにデータを提出している。このように、我が国の現状及び動向を把握し国内外に向けて発信することは、国際社会の中でAMRに関する施策を推進するために重要である。

方法

本報告書は、ヒト、動物、食品及び環境の有識者によって構成された薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会において、動向調査や研究等における情報を検討したものである。ヒト・医療分野の主要な病原細菌における薬剤耐性率は、厚生労働省の院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)から、動物由来細菌における主な薬剤に対する耐性率と動物における抗菌薬の販売量に関しては、農林水産省の動物由来薬剤耐性菌モニタリング(JVARM)から情報を得た。また、ヒトにおける抗菌薬の販売量は抗菌薬使用動向調査サーベイランス(JACS)から、抗菌薬使用量はレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)から、抗菌性飼料添加物の流通量は独立行政法人消費安全技術センター(FAMIC)及び一般社団法人日本科学飼料協会から、農薬として用いられている抗菌剤の国内出荷量は農林水産省から情報を得た。既存の動向調査等では調べられていないが、公衆衛生の観点から重要と考えられる微生物の薬剤耐性や、国民のAMRに対する認知度等に関しては、個別の研究等の情報を得た。多くの情報は2015年までの情報である。

結果

近年、世界各国では、ヒトにおけるAMRの問題として、大腸菌や肺炎桿菌などの腸内細菌科細菌におけるカルバペネムへの耐性率の増加が問題となっているが、日本では、これらの耐性率は1%程度で推移している。腸球菌属では、国際的にはバンコマイシン耐性の増加が問題となっているが、日本ではこの耐性が1%以下と低いレベルで推移している。日本では、大腸菌における第3世代セファロスポリン系薬剤及びフルオロキノロン系薬剤への耐性率は増加傾向にあり、また、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の割合も50%程度と未だに高い水準にある。さらに、肺炎球菌におけるペニシリン耐性率についても、髄液検体では概ね40%前後で推移していた。日本におけるヒト用抗菌薬の販売量は、内服薬が抗菌薬全体の9割を占めており、その内訳では、ペニシリン系の使用比率は少ないが、一方、セファロスポリン系、マクロライド系、キノロン系の使用比率が高い傾向にある。
動物においては、牛、豚及び鶏由来の耐性菌の調査を行った。大腸菌とサルモネラ属菌については、病畜由来株の耐性率の方が、健康動物由来株の耐性率よりも高い傾向であった。抗菌剤毎にみた場合、動物種及び菌種により差はあるものの、概ね、テトラサイクリン系抗菌剤の耐性率が高かった。指標細菌である健康家畜由来の大腸菌の第3世代セファロスポリン系及びフルオロキノロン系抗菌剤に対する耐性率は、概ね、10%以下の低い値で推移していた。養殖水産分野における薬剤耐性に関する監視・動向調査としては、2011年から病魚(ぶり属魚類)由来の連鎖球菌症原因菌及び類結節症原因菌、並びに水産養殖環境由来の腸炎ビブリオの薬剤感受性の調査を実施されている。動物用抗菌剤の販売量(畜産動物、水産動物及び愛玩動物への販売量)は、動物用医薬品等取締規則に基づき報告された抗生物質および合成抗菌剤の販売量をもとに、原末換算した量(トン:t)として集計した。2009年、2011年及び2013年における動物用抗菌剤の販売量はそれぞれ854.50、793.75及び780.88tであり、年とともにやや減少傾向にあった。最も販売量が多い系統はテトラサイクリン系で全体の約4割を占めていた。一方で、第3世代セファロスポリン系抗菌剤およびフルオロキノロン系抗菌剤については、それぞれ全体の1%未満であった。

結語

使用比率及び耐性率が高い傾向にある抗菌薬は、ヒトではセファロスポリン系抗菌薬やキノロン系抗菌薬、動物ではテトラサイクリン系抗菌剤であった。ヒト及び動物由来耐性菌の動向調査は確立されてきているが、一方、環境や食品等の分野においては、包括的な動向調査が十分には行われていない。今後、これらの動向調査に向けたさらなる検討が必要である。また、現在実施されている動向調査についても、精度を高めていくためには、偏り(バイアス)の影響を考慮した分析や精度保証、動向調査間の比較方法等に関して、検討が必要なことが明らかとなった。これらの課題を一つひとつ解決していくことで、薬剤耐性の生成や伝播に関するヒト、動物、農業、食品及び環境の各分野の関係性やその機序の解明に繋がることが期待される。

アクションプランの成果指標
動物に関するアクションプランの成果指標:特定の耐性菌の分離率(%)
2015年* 2020年
目標値 †
肺炎球菌のペニシリン非感受性率 , 髄液検体 § 40.5 15%以下
肺炎球菌のペニシリン非感受性率 , 髄液検体以外 § 2.7 15%以下
大腸菌のフルオロキノロン耐性率 38.0 25%以下
黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率 48.5 20%以下
緑膿菌のカルバペネム耐性率(イミペネム) 18.8 10%以下
緑膿菌のカルバペネム耐性率(メロペネム) 13.1 10%以下
大腸菌のカルバペネム耐性率(イミペネム) 0.1 0.2%以下(同水準)¶
大腸菌のカルバペネム耐性率(メロペネム) 0.2 0.2%以下(同水準)¶
肺炎桿菌のカルバペネム耐性率(イミペネム) 0.3 0.2%以下(同水準)¶
肺炎桿菌のカルバペネム耐性率(メロペネム) 0.6 0.2%以下(同水準)¶

JANISデータより作成。

目標値は、薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン [1]より抜粋。

アクションプランにある2014年の肺炎球菌のペニシリン非感受性率は、CLSI 2007の基準に沿ってペニシリンのMICが0.125 μg/ml以上を耐性としている。しかし、2008年にCLSIが基準を変更し、髄液検体と髄液以外の検体とで基準が別になり、それに伴いJANISでも2015年以降髄液検体と髄液以外の検体とで集計を分けて掲載している。

薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン [1] には、2014の大腸菌と肺炎桿菌のカルバペネム耐性率は0.1%と0.2%であり、2020年の耐性率を同水準に維持するとある。

ヒトに関するアクションプランの成果指標:抗菌薬使用量・販売量(DID)
2013年 2013年 2020年(目標値*)
使用データ 販売量 NDB
全抗菌薬 15.80 14.00 33%減
経口セファロスポリン系薬 3.85 3.09 50%減
経口フルオロキノロン系薬 2.75 2.61 50%減
経口マクロライド系薬 4.84 4.82 50%減
静注抗菌薬 1.23 0.83 20%減

DID: Defined daily dose per 1000 inhabitants per day 人口1000人あたりの1日使用量。

目標値は、[1]より抜粋。

[2]から作成、一部改変。

[3] [4]から作成、一部改変。

動物に関するアクションプランの成果指標:特定の耐性菌の分離率(%)
2014年 2020年(目標値 *)
大腸菌のテトラサイクリン耐性率 45.2 33%以下
大腸菌の第3世代セファロスポリン耐性率 1.5 G7各国の数値と同水準
大腸菌のフルオロキノロン耐性率 4.7 G7各国の数値と同水準

目標値は、[1]より抜粋。

今後の展望

本報告書は、ワンヘルスの視点から、ヒト、動物、農業、食品及び環境の各分野の薬剤耐性の状況並びにヒト及び動物の抗菌薬の使用量(又は販売量)に関する日本を代表する情報を一つに集約して掲載した初の報告書である。日本における関係各分野の状況及び使用量を一冊の報告書にまとめあげたことは薬剤耐性(AMR)対策の大きな一歩である。また、水産分野や愛玩動物に関する動向調査等の先進的な取組についても掲載しているが、これは世界に発信できる数々の動向調査が日本に存在していることを示している。本報告書を踏まえて、多分野間の連携・協力が進むことによってAMR対策の更なる前進が期待されるとともに、今後も先進的な調査への取組を続けることが、世界のAMR対策をリードする上でも重要と考えられる。
一方で、各分野における薬剤耐性菌の検出状況及び抗菌薬の使用状況に関する情報収集を包括的に行った結果、分野間の状況には幅があることが明らかになった。具体的には、薬剤耐性菌及び抗菌薬の使用に関する各分野間の関係性を検討するに当たっては、各分野で分布する細菌や使用される抗菌薬に違いがあることを考慮し、比較可能にした上で分析を行う必要があることが明らかとなった。今後の課題としては、各分野における動向調査のデータの代表性の検証や測定法の確立、精度管理の標準化、調査研究として行われている動向調査の継続性等が挙げられる。また、薬剤耐性菌及び抗菌薬の使用に関するヒト、動物、農業、食品及び環境の各分野間の関係性やその機序の解明、比較検討を行うための手法の検討等、更なる研究が必要である。

本報告書作成の経緯

本報告書は、第1回(平成29年2月3日(金))、第2回(平成29年3月8日(水))、第3回(平成29年8月21日(月))、第4回(平成29年10月2日(月))の薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会での議論を踏まえ、参考人及び協力府省庁からの協力も得た上で、作成された。

薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会委員(敬称略、五十音順)

浅井 鉄夫

岐阜大学連合獣医学研究科動物感染症制御学 教授

遠藤 裕子

農林水産省動物医薬品検査所 検査第二部長

釜萢 敏

(公社)日本医師会 常任理事

黒田 誠

国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター長

境 政人

(公社)日本獣医師会 専務理事

佐藤 真澄

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究部門 病態研究領域長

四宮 博人

愛媛県立衛生環境研究所 所長

柴山 恵吾

国立感染症研究所細菌第二部長

田中宏明

京都大学大学院工学研究科附属流域圏総合環境質研究センター 教授

田村 豊

酪農学園大学動物薬教育研究センター 教授

早川 佳代子

国立研究開発法人国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンター 臨床疫学室長

藤本 修平

東海大学医学部基礎医学系 生体防御学 教授

松井 珠乃

国立感染症研究所感染症疫学センター 第一室長

御手洗 聡

結核予防会結核研究所抗酸菌部 部長

村木 優一

京都薬科大学臨床薬剤疫学分野 教授

矢野 小夜子

京都府中丹家畜保健衛生所 所長

渡邉 治雄*

国際医療福祉大学大学院医療福祉国際協力学分野 教授

*座長

参考人(敬称略、五十音順)

大西 真

国立感染症研究所細菌第一部 部長

小西 典子

東京都健康安全研究センター微生物部食品微生物研究科 主任研究員

田辺 正樹

三重大学医学部附属病院感染制御部 部長 病院教授

協力府省庁

内閣府食品安全委員会事務局

農林水産省

環境省

事務局(厚生労働省健康局結核感染症課)

三宅 邦明

結核感染症課長

野田 博之

課長補佐

高倉 俊二

課長補佐

神代 和明

医療専門職